認定理学療法士は年収や給料アップ、昇給につながる?
認定理学療法士とは、公益社団法人日本理学療法士協会(JPTA)の生涯学習制度の一環で、理学療法士の資質向上や職能的水準を引き上げることを目的とした資格です。既定の研修プログラムを修了し、7つの専門分野(基礎理学療法、神経理学療法、運動器理学療法、内部障害理学療法、生活環境支援理学療法、物理療法、教育・管理理学療法)から一つ以上に登録し、認定理学療法士を目指します。似たような資格として専門理学療法士もありますが、こちらは技術的や職能面ではなく、学問的アプローチの資格です。2020年の同協会のデータによると、認定理学療法士は全会員のうちの約9%、専門理学療法士は約1%程度が取得しているようです。
理学療法士の情報サイトや転職求人サイトなどでは、この認定理学療法士になると、年収アップやキャリアアップにつながるという情報が多く掲載されています。検索エンジンでも、「認定理学療法士 試験 難易度」「合格率」などのほかに、「メリット」「意味ない」といったもの、そしてやはり気になる「年収」といった言葉も検索されているようです。理学療法士の求人を常時行っている当社が具体的な数値を交えながら、認定理学療法士になると本当に年収や給料アップにつながるかを解説します。
目次
認定理学療法士の年収/基本給/初任給/賞与
認定理学療法士になるには、まず約5年間の研修を受けて登録理学療法士(2022年より制度開始)になり基盤を固めます。その後、専門領域を選び試験に合格しやっと資格取得となります。その間にかかる実際の費用は協会員限定コンテンツでしか確認できないようですが、研修期間をふまえると高額になることが予想されます。取得後も認定期間5年間で、年会費は2万円前後、学会や研修参加費は1回あたり8千円前後というランニングコストがかかります。つまり、認定理学療法士になるには時間もお金もかかる、ということです。そして資格取得後にそれに見合った待遇を受けられるか、それ以上の給料がもらえるか、就職や転職の際に有利になるかという点が重要です。
認定理学療法士の年収
結論を言うと、認定理学療法士の資格を取得しても、給料面などの待遇が良くなることは保証されていません。資格取得者を優遇し高額の給料を払う場合、企業・病院側にもメリットがないと成り立ちません。現状の資格取得者の数、認知度等をふまえると雇用側の収益が見えづらいため、自ずと待遇にも反映されていない状況です。つまり、認定理学療法士の年収は、通常の理学療法士と同様に409万円(厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査結果」)が目安です。
認定理学療法士の基本給
こちらも年収と同様に通常の理学療法士と同じだとすると、「賃金構造基本統計調査」にある月収28万円です。男女別でも収入に大きな差はないようです。ただ、この給与額は常勤の正社員で勤続年数も混在している平均であるため、あくまで一つの目安です。資格を認定している協会としても今後は、認定理学療法士の地位向上を目指しています。将来「当クリニックには認定理学療法士が在籍しています!」ということがアピールになり、患者も増えるという宣伝になる日が来れば、認定理学療法士の基本給や年収もアップする可能性はありえます。
認定理学療法士の初任給
新卒の場合、理学療法士の国家資格を取得したばかりで、認定理学療法士の資格を取ることが現実的に難しいため、一般の理学療法士の初任給を目安にするとよいでしょう。理学療法士の初任給の相場は20~25万円です。同統計の「新規学卒者の初任給の推移(令和元年)」によると、理学療法士をふくむ医療・福祉業全般の初任給は、短期大学や専門学校卒が18.9万、4年制大学卒が20.6万、大学院修士課程修了者が20.9万となっており、理学療法士の初任給自体は平均値以上であることが多そうです。
認定理学療法士の賞与
年収に大きな影響があり、仕事のモチベーションにも大きく関わる賞与(ボーナス)。統計データによると、理学療法士の年間賞与は月給約2.3ヵ月分の64万円が平均値のようです。ただ、民間の企業や病院の場合は、年齢や勤続の年数や業績に応じてボーナス額が変動しますので、高めになる年もありえます。勤務先として、比較的賞与が安定している(倒産リスクの低い)と言われる病院などを選択肢に入れるのもありかもしれません。いずれにしても認定理学療法士だからボーナス額が優遇される、といった事例はあまり見かけない印象です。
認定理学療法士の昇給と昇進/手当と福利厚生
認定理学療法士の資格が昇給と昇進にどの程度影響があるか、また資格に対する手当はあるかも気になるとことです。この点は雇用側の考え方や方針によるところが大きいため、決まった傾向はないのが現状です。しかし、5年の研修や専門分野の知識を持っている人材というのは雇用主にとっても魅力的です。どのように活かすかは、やはり普段の業務で能力を発揮できるかどうかだといえます。
認定理学療法士の昇給と昇進
理学療法士の昇給は、ほかの職種と同様にやはり年齢や勤続年数、能力や役職に連動していることが多いようです。例えば以下の表は一例ではありますが、年代が上がるごとに50万円以上は昇給していることがわかります。店舗や地域責任者、エリアマネージャーなどの管理職に昇進した場合には更なる年収アップも見込めるでしょう。昇給や昇進に認定理学療法士の資格が直接的に関係するかどうかは、その会社の考え方次第ですが、資格取得のための勉強で知識が増え、能力も高いことを普段の業務で示せれば昇進にもつながると思われます。
年代 | 平均年収 | 1つ前の年代との年収差 |
---|---|---|
20代理学療法士の年収 | 350万円 | - |
30代理学療法士の年収 | 407万円 | +57万円 |
40代理学療法士の年収 | 471万円 | +64万円 |
50代理学療法士の年収 | 537万円 | +66万円 |
認定理学療法士の手当と福利厚生
認定理学療法士にだけつく手当があるとすると、資格手当です。あまり多くはありませんが、企業や施設によっては求人情報にそのような記載があることを確認できました。例えば、とある訪問看護リハビリステーションでは、認定理学療法士の資格手当として月給+1万円としているケース、また別のあるリハビリ施設では認定理学療法士等の資格手当として1つの資格につき2万円が月給に加算されるというケースもありました。それ以外の手当や福利厚生については一般の理学療法士と基本は同じと考えてよいでしょう。以下に、一般的な手当と福利厚生の一例をまとめました。当社や公務員理学療法士独自のものも一部掲載しております。ぜひ参考にしてみてください。
- 各種社会保険完備(雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金保険等)
- 通勤手当(交通費支給)
- 時間外勤務手当(残業手当)
- 休日出勤手当
- 住宅手当
- 借り上げ社宅制度/社員寮(独身寮)制度
- 退職金制度
- 家族手当
- 扶養手当
- 産前産後休暇
- 育児休暇制度
- 介護休職制度
- 研修制度
- 技能手当/技師手当
- 暫定手当/調整手当
- 役職手当
- 業務手当
- 食事手当
- 奨学金制度
- 件数に応じたインセンティブ手当 4,000円/件※コンパスの例
- 制服貸与
- 初任給調整手当 ※公務員の例
- 災害派遣手当 ※公務員の例
- 本府省業務調整手当 ※公務員の例
認定理学療法士の勤務先による年収の違い
実際の理学療法士経験者などの声として「病院は基本給は低めだが賞与は高め」や「民間企業の年収は平均以下」等の様々な体験談もありますが、あくまで一例です。実際には理学療法士の場合、職場による給与や年収に大きな違いはありません。やはり勤務先の業績や経営状況に影響されるため、この施設なら安泰とは一概に決めることができないためです。以下、理学療法士の一般的な職場例です。認定理学療法士の場合はこれに加え、スポーツ医科学センターのリハビリテーション科なども選択肢が増えますのでそちらも紹介します。
理学療法士の職場例
- 病院、クリニック、診療所などの医療施設
- 医療福祉中間施設、介護保険法関連施設
- 老人福祉施設、高齢者のためのデイケアサービス(デイサービス)
- 教育・研究施設、児童福祉施設
- 障害者自立支援施設、身体障害者福祉施設、知的障害者福祉施設、精神障害者社会復帰施設 等
認定理学療法士の職場例
- 病院の整形外科/リハビリ科
- スポーツ医科学センターのリハビリテーション科
- 介護老人保健施設(老健) 等
認定理学療法士とほかの職業の年収比較
ここまで書いた通り、認定理学療法士の年収については、資格手当や職場以外は、通常の理学療法士とほぼ同じ水準で考えるのが一般的です。その前提で、ほかの医療業界の職業とも年収を比較してみます。なかには今後を見据えて、理学療法士と作業療法士のダブルライセンスを取得して、年収アップを目指すという方もいます。どの資格と組み合わせると年収を上げられるかの参考にもしてください。
理学療法士と作業療法士の年収
『令和元年賃金構造基本統計調査』でも理学療法士と作業療法士は一緒の括りとなっており、年収409万円です。この2つの職業の給料を合わせて平均月収、平均年収、平均賞与が算出されているようです。そのため、理学療法士と作業療法士の年収は一般的にはほぼ同じという認識でよいでしょう。
理学療法士と言語聴覚士の年収
理学療法士=Physical Therapist(PT)、作業療法士=Occupational Therapist(OT)、言語聴覚士=Speech Therapist(ST)の3つは英語名の通りセラピスト職としてしばしば比較されます。略称でPTOTSTと呼ばれることもあります。言語聴覚士の年収は400万円前後が相場のため、理学療法士や作業療法士とほぼ同じくらいの年収であることがわかります。
医療・介護職における理学療法士の年収
まとめとして、医療・介護職の他の職業の基本給や賞与、そして年収と比較してみます。以下の一覧も厚労省によるデータですが、理学療法士はちょうど中間あたりに位置しています。認定理学療法士の資格手当やボーナスが高い職場であれば、1つ上の順位の年収は目指せそうな金額です。また、この一覧には掲載されていませんが、よく理学療法士と比較される仕事の年収も紹介します。柔道整復師は年収300〜400万円、視能訓練士(COまたはORT)と義肢装具士は年収300万~400万円、あん摩マッサージ指圧師は年収350~380万円、鍼灸師は年収350〜450万円程度です(当社調べ)。この中では、鍼灸師以外は理学療法士の方が年収が高めであることがわかりました。
職種 | 基本給年収 | 賞与 | 合計年収 |
---|---|---|---|
医師 | 1,092万円 | 77万円 | 1,169万円 |
歯科医師 | 540万円 | 29万円 | 570万円 |
獣医師 | 511万円 | 60万円 | 571万円 |
薬剤師 | 478万円 | 83万円 | 561万円 |
看護師 | 401万円(6位) | 81万円(4位) | 482万円(6位) |
准看護師 | 338万円 | 64万円 | 403万円 |
診療放射線・診療エックス線技師 | 415万円 | 86万円 | 501万円 |
臨床検査技師 | 373万円 | 87万円 | 461万円 |
理学療法士 作業療法士 | 345万円(9位) | 64万円(7位) | 409万円(8位) |
歯科衛生士 | 322万円 | 48万円 | 370万円 |
歯科技工士 | 355万円 | 29万円 | 384万円 |
栄養士 | 295万円 | 60万円 | 356万円 |
保育士(保母・保父) | 293万円 | 70万円 | 363万円 |
介護支援専門員(ケアマネージャー) | 330万円 | 62万円 | 393万円 |
ホームヘルパー | 288万円 | 38万円 | 327万円 |
福祉施設介護員 | 293万円 | 53万円 | 346万円 |
出典:厚生労働省『令和元年賃金構造基本統計調査』企業規模計(10人以上)の給与額より算出
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将来的には需要が高まる可能性もある認定理学療法士の資格ですが、それが年収アップにつながる機会が少ないのが現状です。もちろん、医療・介護・福祉系専門の転職求人サイト「マイナビコメディカル」「ジョブメドレー」「guppy」「PTOTキャリアナビ」などに認定理学療法士優遇の求人がないわけではありません。そして、今後有利になる可能性も秘めています。理学療法士の求人も多い「PTOTSTワーカー」が発信している「postart(ポスタート)」のようなサイトで業界の最新事情を追ったり、ハローワークなどで認定理学療法士優遇の求人がないかを聞いたりするのも一つの手段です。また、認定資格取得を目指す、勉強をすることは自身のスキルアップにもつながり、現在の職場で働く際にも活かすことができます。ぜひご自身なりの目標や目的を固めてから資格取得を検討してみてください。
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